「おてみ、おてみ。ぞばにおるのか?aの声が聞こえるか?」 aは湯につかりながら、警護の為にそばにいるであろう 忍びのおてみに声をかけた。 優之助同様小さい時から知っているおてみにaはいつも気安く声をかけ、 密かにそれを楽しみにしていた。 「はい、a君様、聞こえております」 「おてみ…慈音守様から聞いたのじゃが、父上様の元の忍びがこちらに来ると… おてみも知っておるか?」 「はい、勿論でございます。a君様をお守りするため、向こうの 親丼、織音、優之助がこちらにもう向かっております」 「…  ゆう  …  優之助も来るのか?」 「はい」 aの胸がドキドキと高鳴った。 「…みんな大きゅうなったのであろうな…  みんなaよりも小さかったのじゃが…」 「はい、皆それは見間違うくらいに大きくなりましてございます。 親丼は横に大きく、織音と優之助はおてみよりもうんと背が高くなりました」 「そうか…フフフ…親丼は横に大きくなったのか?」 「はい、少し大きくなりすぎて、かかし先生に怒られておりました」 「おてみ…  茶々の木は大きくなっておったか?」 「はいおてみが見た時にはもう立派な木になって丘の上にそびえ立っておりました」 「母上様がいつまでも見守っていてくださるのじゃな…」 「はい、おてみもあの木の下に行くと何だかホッといたします」 「いつかまた、あの木の下に立つ事が出来るじゃろうか?」 「a君様…今はあちらこちらで戦をしておりますゆえ、あぶのーございますが いつかまた…てみたちがお守りして、a君様をお連れいたします」 「連れて行ってくれるのか?おてみ…」 「a君様!!!のぼせますゆえ、はよーにお上がり下さいませ!!」 お竹の大きな声が聞こえ、 「フフフ…はよー上がらねば…お竹が怒ると怖いからのー。 おてみ…楽しかったぞ」 「はい、a君様… はよーお上がり下さいませ」 「a君様ーお久しゅうございまする」 「喜遊君様、わざわざおいでいただきましてありがとう存じます」 「良いのです。喜遊の旦那様はずっとおられぬゆえ」 「そうなのでございますか?戦が大変なのでございますね?」 「それがa君様…違うのでございます…どこぞのおなごの所を渡り歩いておられるのです」 「は?喜遊君様…その様なお戯れを…」 「戯れなどではございません。誠の事でございます。a君様は兄上様しかご存じないゆえ 信じられない事でありましょうが、世のたいていの殿方はその様な有様だと 母上が申しておりました」 「…………」 「オホホホ…a君様のその驚いたお顔!!  ゆっくりさせて頂きますゆえ 詳しく聞いてくださいませね」 「は…はい 喜遊君様」 そこへ慈音守が帰ってきた。 「喜遊!よう来てくれたのー。aが一人では可哀想ゆえ、話相手になってやってくれよ わしはもう明日から戦に行かねばならなうなった」 「え??慈音守様…  そのように急な事を…」涙ぐみ俯くaを見て、 慈音守はチラリと喜遊の視線を気にしたものの、 aを抱きしめ 「心配するな、a。すぐに帰ってくるから、aのもとに。 喜遊と共に待っていてくれ」 涙を拭い、うなづきながら 「申し訳ございません。慈音守様…大事な戦に行かれるというのに… aもちゃんと城を守っておりますゆえ、慈音守様もご心配なさいませんように」 ゴホッ ゴホッ 軽い咳払いをしながら喜遊が 「お兄様もa君様も喜遊がここにおるのをお忘れではございませんか? 仲のよろしいのは喜ばしゅうございますが、うつけものの旦那様を持つ 喜遊にはちと胸がチクチクと痛みまする」 慈音守とaはパッと離れて 「おー悪かったな、喜遊」とばつの悪そうな顔で喜遊を見た。 「喜遊君様…申し訳ございませぬ」aは深々と頭を下げた。 「ホホホ… a君様はまた、真に受けて…  ホホホ」 喜遊の明るい笑い声につられて、二人も笑い出した。  次の日の朝 慈音守は沢山の家来と共に、旅立とうとしていた。 「家尊!!あとは頼んだぞ!父上の元からの忍びは来たのか?」 「はい、皆揃っております。a君様の事は我らにお任せ下さいませ」 「何があってもaを守ってくれ!頼む!家尊!頼んだぞ!」 「は!!!!」 「慈音守様…どうかご無事で…」aは慈音守を見つめ、涙を堪えた。 慈音守もaを見つめ、大きく頷き、吹っ切るように馬の腹を強く蹴り、 出陣していった。 その二人の様子を誰にも見えぬ所に潜む 優之助がじっと見ていた。 「茶々姫様…」