「竹…  今日は良い天気じゃのー 茶々は久しぶりに気分が良いから   茶々の木の丘まで行ってみようかのー… ゆうは… ゆうは…今日もかかし殿と修行か?」 「姫様…ほんに今日はあたたかこうて、お外に行かれるには丁度良いかと存じます。 ゆうのすけは毎日 ”早く立派な忍びになって姫様をお守りするんだ!と 修行に励んでおります。 茶々の木の丘あたりにおるやもしれませぬゆえ、さっそくご準備を」 「そうか… 竹 あの辺りにおるかもしれぬのじゃな」 茶々姫の顔がパッと明るくなり、嬉しそうにお竹を見て、頷いた。 「母上様…  おひさしゅうございます」  茶々はそう言いながら丘の上にポツンと1本植えられた茶々の木を抱きしめた。 「母上様…茶々はお嫁に行くことになりました。 ここへも、もう二度と来れぬかもしれませぬ。 …  母上様…  母上様がおられたら、茶々は色々と教えて頂きたい事が ありましたのに…」  茶々が産まれた時に茶々の母親が記念にと植えさせた茶々の木に グルリと腕を回して、愛しげに頬をつけ涙ぐんだ。 周りにいるお竹をはじめ、次女たちも同じ様に涙ぐんでいる。  その時、音も立てずに、ふっと茶々姫のすぐそばに一人の忍びが どこからともなく、現れた。 地面に片膝をつき、頭を下げたその忍びは 「茶々姫様、お久しゅうございます。今日は顔色もよくあられて、 かかしも嬉しゅうございます」 「かかし殿!!!」 茶々姫はかかしを見て、木から離れ、涙をぬぐい、嬉しそうに微笑み かかしの周りをキョロキョロと見回した。 「かかし殿…  お一人でございますか?」 「いえ… 修行中の子供たちもじき参ります」 そう話している間に かかしとは明らかに違うスピードで 子供たちが次々と茶々の元へ たどりついた。 「はぁはぁはぁ… 家尊 ただいま姫様の元へまいりました」 「呑平も…はぁはぁ…まいりました」 少し遅れて 「ゆうのすけ… ただいま茶々姫様の元へ…」ゆうのすけは ひざまづきはしたが、頭を下げずに茶々の顔をじっと見つめた。 それを見たかかしが、ギュッとゆうのすけの頭を掴んで、下げさせた。 「手明もただいままいりました」唯一のくのいち手明も遅れて やってきた。 「…  ゆう … 」茶々はゆうのすけの元へ駆け寄りたい衝動を堪え、 小さな忍びたちを見渡し 「ご苦労であった。みな修行は辛くは無いか?うまくいっておるのか?」と 皆をねぎらった。 一番年上で茶々と変わらない背丈の家尊が膝まづいて、頭を下げたまま 「姫様、ありがとう存じます。皆お殿様と姫様をお守りするために毎日頑張っております」 「そうか…それはありがたい事じゃな… 茶々も心強いぞ」 かかしが子供たちをさげ、 「姫君様、ご出発の日にちはお決まりになられましたか?」 その言葉を聞いたゆうのすけはドキリとした様子でまた頭をあげてしまい 今度はそばにいた、家尊にギューっと頭を押さえつけられた。 じっとゆうのすけを目で追う茶々は、その様子に心を痛め 「…  父上様があと…ひと月と決められました…」そう言い、ゆうのすけから 目をそらし、そっと茶々の木を見上げた。