「ちゃちゃ、今度元気な時に 茶々の木まで行こうよ。ちゃちゃが疲れたらおらが おぶってやるから」 「フフフ…ゆうが茶々をおぶってくれるのか?それなら安心じゃな。 長い間外に出ていないから…早く元気にならねばね」 「そうだよ!ちゃちゃ!早く元気になれよ」ゆうのすけはそう言いながら 振り向いて、小さな小指を茶々の前に差し出した。 茶々は嬉しそうに微笑み、ゆうのすけの小指と自分の小指を絡め 「指切りげんまんじゃな。ゆうに教えてもらった」 「そうだよ。ちゃちゃは何も知らないからな…約束する時はこうするんだからな ちゃちゃ約束だぞ!」 「フフフ…ゆうと茶々の約束じゃな」  二人は長い間楽しそうに見つめ合い 指切りをしていた。  しばらくして、遠くの方で 「殿のお帰り〜〜殿が帰ってこられたぞー」と俄かに城内が慌ただしくなった。 茶々はあわてて、ゆうのすけを離し、 「ゆう!父上様が帰ってこられた!はよー見つからぬように、裏から帰るのじゃ! ゆうは忍なのじゃから、出来るな?」緊張した面持ちでゆうのすけを押しやった。 「大丈夫!おら父ちゃんよりもすげー忍になるんだから!じゃぁちゃちゃまたな!」 小さな体だが自信満々でそう言い、来た時とは違い足音をたてないように 身軽にササッと消えて行った。 ”ゆう…気を付けて… 約束守るから…また来ておくれ…” 茶々は言うと同時に素早く消えたゆうのすけをたくましくなったなぁーと思う 母のような気持と、いつまでも側に居て欲しいと願う気持ちとで、寂しげに見送った。 「茶々姫!!帰ったぞ!!」大きな声で叫びながら忠信が近づいてくる気配に 茶々はキュッと身を引き締め、身なりを整えた。 ゆうのすけと同じように襖を勢いよく開けながら忠信が 「茶々姫!!」と叫び 茶々は丁寧に指先を畳につけて 「お帰りなさいませ。父上様…お怪我はございませんでしたか?」 茶々が言い終わらぬうちに忠信は茶々を抱きあげ 「茶々姫!会いたかったぞ!どうじゃ!?体の調子は?元気にしておったのか?」 抱いた茶々の顔をまじまじと見つめ 「茶々…母様に似て、ますます綺麗になったのー」茶々の頬に自分の頬を摺り寄せた。 「父上様…」茶々は恥ずかしげに離れようとするが忠信は茶々を離さず 抱きかかえたまま部屋を変え、 「酒だ!酒を持たぬか!!」と叫んだ。 忠信はあぐらをかいた膝の上に茶々をのせ、酒を浴びるように飲んだ。 「茶々!今度の戦はちと厳しい戦になるやもしれぬ…  父は姫の事だけが気がかりじゃ… 茶々はいくつになった??」 「はい、父上様  茶々は15になりました…」 「そうか…  もう15になったか…  茶々の母様も15の時に父の元に嫁いできたのじゃ…」 「…はい…  」 「…茶々…  ずっと断ってきたが…  遠縁の慈音守が茶々を嫁にくれとうるさいほどに言ってきおる… 嫁になどいかせたくはないが…  いつどうなるやも知れぬ 父の命…そんな元で一人で城に おくのは忍びない…  あやつなら、茶々を幸せにしてくれるやもしれぬ」 「… …  父上様の仰せの通りに  …」顔もみたこともない慈音守に嫁ぐ… 生まれ育ったこの地を 離れて暮らす…  体も弱く起き上がれる日も少ないというのに… そんな色々な不安を胸いっぱいにため 茶々は父忠信の苦渋に満ちた顔を見て、そう答えるしか出来なかった。