このお話は歴史小説ではありません。 ただの妄想おばさんの妄想です。 時代考証、言葉使い、名前、すべて適当です。 茶々姫もお市の方の娘茶々とは違います。 別嬪さんというとこだけ、同じです。 ご勘弁のほど。 2 「ちゃ〜ちゃ〜」 ゆうのすけの幼い甲高い声が城に響き渡り、ドタドタと走ってくる音が聞こえ 茶々の頬が上気し、青白い顔が桃色に染まっていった。 「ゆう…」自然と笑みが浮かび、ゆうのすけが部屋にたどりつくのを ドキドキと待った。 襖を勢いよく開け、ニコリと笑ってゆうのすけが入ってくる。 「ちゃちゃ、今日は起きてたのか?熱はないのか?」 「こら〜〜〜〜〜!!!ゆうのすけ!!」ドシンドシンと大きな足音がして お竹が続いてはいってくる。 「おまえはまた勝手に姫様の部屋に入って!!そんな汚い恰好で姫様のおそばに寄るでない」 お竹はゆうのすけの首根っこをつかまえて、部屋の外へ連れ出そうとするが 「竹…  茶々はゆうと話がしたいのに…  ダメなのか?」 涙ぐむ茶々を見て、手足をジタバタと振り回し、 「かあちゃん!おろせよ!父ちゃんも門番のおっちゃんもみんな ”ゆう!早く姫様の所へ行ってあげなさい”って言ってたぞ! 城の中の女中さんだって、みんな ”ゆう、姫様が首をなごーしてお待ちじゃぞ”って かあちゃんだけが邪魔するんだ!!おろせよー!」とジタバタするがお竹はビクともしない。 「ふん!みんなして甘やかして……   姫様少しの時間だけでございますよ。 今日はお殿様もお帰りになる予定ですゆえ」 「ゆうのすけ!おまえは先に手と顔を綺麗に洗って、着物についた泥を払ってきなさい」 「わかったよ〜わかったから、おろせよ〜」 お竹が掴んでいた手を離すと、ゆうのすけは一目散に外の井戸へと走って行った。 その様子を茶々は楽しそうに見つめ、お竹に向かって 「竹…  ありがとう… 茶々のわがままを聞いてくれて…」 「姫様 滅相もございません。 でも姫様… お殿様に見つかればまたお叱りを受けますゆえ くれぐれもお気をつけくださいませ」 お竹の心配そうな顔に茶々は小さく頷いた。 「ゆう…  今日はどんな事を習ってきたのじゃ?」 茶々はゆうのすけを膝の上にのせ、ユラユラと体をゆらして、 母親が小さな子供をあやすようにした。 「今日は父ちゃんと水の上を走る練習をしたんだ」 「水の上???  ゆう…  かかし様は水の上を走れるのか?」 ゆうのすけはパッと後ろの茶々を振り返り、自慢げに 「そうさ!父ちゃんは水の上だって簡単に走れるんだぜ! おらもすぐに走れるようになる!そしたら、茶々に一番に見せてやっからな!」 「そうか…  ゆうならすぐに出来る様になるな…  そうか… 楽しみが出来たぞ。茶々にも楽しみな事が出来た… ゆう…早くみせておくれ」  茶々はそう言って細い腕でギュッとゆうのすけを 抱きしめた。 「茶々はいい匂いがするな。かあちゃんとは違うな。ハッハッハ」 「そうか?茶々はお竹の香りもゆうの香りも大好きじゃ。お竹にこうして ユラユラとしてよく眠らせてもらった…」 「ふ〜〜ん、茶々はほんとのかあちゃんが死んじゃったから、おらのかあちゃんに ユラユラしてもらったのか。やっぱりおらと茶々は兄弟だな。 な、そうだろ?姉ちゃんだな。泣き虫な姉ちゃん」 「兄弟か。ゆうが茶々の弟なのだな? 嬉しい…  茶々には弟がいるのだな… 一人ではないのだな…  ゆう…  ずっと弟でいてくれるのか?」茶々は込み上げる涙を 堪え切れずに鼻をすすった。 「ほら〜また泣く〜〜〜  茶々は泣いてばっかりだな。 泣き虫姉ちゃんは いらないぞ!!泣かないなら、ずっと姉ちゃんだ」小さなゆうのすけに偉そうに言われても 素直にぐっと涙をこらえ 「泣かない。もう泣かないぞ…  だからずっと弟でいておくれ ゆう」ゆうのすけの 小さな背中に顔をうずめた。