ユノは気持ちを切り替えようと発声練習をしたり、歌詞の確認をしたりした。 しかし、二人の事をバカにされたような…  軽くあしらわれたような、そんな気がして 浅野がした行為がどうしても許せなかった。 イライラするユノの様子に気づき、チャンミンは 「ユノヒョン…気にするなよ…どうせ僕らの事なんて、誰にも理解して貰えないんだから」 韓国語で周りに聞こえないように、囁いた。 ”チャンミナ…そうだな…わかってもらおうと思うから、腹が立つんだな… チャンミナ…これが悲しい現実だな” ユノは言葉には出さず、チャンミンを見てうなづいた。 ”二人で頑張るしかないんだな…  最後はやっぱり二人だけなんだな…” 少し寂しい気持ちになりながらも、チャンミンの言葉でようやく切り替える事ができ 最終確認をしに、スタッフの元へ急いだ。  場内の明りが消され、観客の悲鳴と歓声が交錯する。 浅野は耳をつんざくばかりのその声に驚き、 何だ!?いったい何が起こったんだ??とコンサートい来ている事を忘れる程だった。 「パパ!!もうすぐだよ!!もうすぐ始まるよ!!! 立って!!立ってよ!!」 「嫌だね!」 「フン!ノリの悪いおやじよね!!まったく!腕組んだまま見るのだけはやめてよね!」 と本当は松潤のファンで「東方神起のコンサート行かないか?と誘った時には 「え〜〜嵐じゃないの?あんま興味ないけど、行って欲しいなら、お小遣い頂戴よね!」 などと言っていた娘が、ノリノリでペンライトを振っている。  東方神起の二人が登場し、会場のボルテージは一気に上がり、 浅野ですら座ってみているのが申し訳ない気持ちになった。  ステージに立った二人は全くの別人だった。 映画で共演した、控えめで謙虚なチャンミンの姿も、とんでもない恰好でホテルに現れた ユノも、切なげにチャンミンを抱き、苦悩に満ちた目でじっと俺を睨みつけたユノも どこにもいない。 あそこで生き生きと歌い、踊り、走り回る二人は、きっと別人に違いない。 浅野はそう思い、周りの歓声が聞こえないくらい、二人に集中した。 チャンミンは常にリーダーを見るんだな… リーダーは…  自由奔放にやってるように見えて、ちゃんと計算してやってる。 どうすれば客が喜ぶか知り尽くしてるんだな。 …  そして…  チャンミンを感じてる…  見てないくせに… ちゃんとチャンミンを感じて動いてる… 「おい!!グループの歌手ってあんなにピッタリ揃うもんなのか!?」 「え??何??パパ…聞こえなーーーい」 「だ・か・ら!!!嵐はあんなに揃って踊ってるのか!?」 「嵐は揃えて踊らないのが、魅力なのよ!!」 「… フン…  そうか…」 … あいつら踊りだけじゃなくて、動きや歩調まで一緒じゃねーか… …  何なんだよ…あいつら… 何もんだ!?… …  韓国の宝…  たしか淳平がそんな事言ってたな… 「おい!知ってるか?あいつら元は5人で何かもめて、2人になったんだぞ」 浅野は娘のすみれに知ったかぶりで自信ありげに言うが 「パパ!そんな事知ってるよ!」とバカにしたように呆れた目つきで見られた。 「だって、すみれ5人最後の紅白見たもん! 今はあんなに生き生きとしてるチャンミンさんも、すごく、すごく辛そうで、 今にも泣き出しそうで、その時は何も知らなかったから、 ”どうしたんだろ〜?”って思ったもん… 良かったよね。あの二人では無理だろう、なんてマスコミに叩かれたりしてたけど こんなに成功して…  ほんと良かったよね」 浅野は娘をまじまじと見つめ 「すみれ、松潤のファンで東方神起、興味ない!って言ってなかったっけ?」 「しらな〜〜〜い」と高校生のすみれは隣の同じくらいの若いファンと一緒に 「チャンミ〜〜ン♪ユノ〜〜〜♪」と黄色い声で叫んだ。 「…松潤 かわいそ…  」浅野は娘に聞こえないように、つぶやき またじっとステージの上の二人に集中した。 「…俺はなんでこんなに気になるんだ?? どうしてこいつら二人から目が離せないんだ?どちらかと言えば 他人に興味のない俺が…」 浅野は自分の中に沸き起こる不思議な感情に困惑した。 3時間を超える長時間のライブを全力で走り回り、観客、スタッフ、バンド、ダンサー 皆に感謝をして、深々と頭を下げる二人を見て、浅野は 「俺は今まで、人に対してあんなに深々と頭を下げた事があっただろうか…」 そんな風に感じ、ハァーと深いためいきをつき、座席の背もたれに倒れこんだ。 ライブ終了の場内アナウンスがあり、会場が明るくなる。 「やーねー、パパ!そんなに疲れたの!?ずっと座って観てたくせに!」 「あーすごく疲れた。もうクタクタだ。すみれおまえ一人で帰れるよな? パパちょっと行くとこあるから…」 「うん!大丈夫!お友達になったからお茶して帰るし」と一緒に黄色い声援を上げていた 隣の女の子を引っ張って腕を絡めた。 「あーそうか。それならちょうどいい」 浅野は財布から1万円札を抜き取り、娘に渡した。 「サンキュー!!パパ!また誘ってね〜〜〜」 娘のすみれは隣の女の子と楽しげに、さっさと帰って行った。 ”さぁーどうしたもんか…” 手帳を取り出し、何かを書いて、1枚をちぎりとった。 浅野が立ち上がり、辺りを見ると、スタッフが飛んできて 「浅野さん、今日はありがとうございました。どうぞこちらから、お帰りください」 と案内すべく、手を差し出した。 「あーありがとう」 案内され歩きながら 「あのさーこれサムさんに渡しておいてくれない?」とメモを手渡した。