朝食のためにテーブルにつき、向かい合う二人。 何を言えばいいんだろう?何と聞けばいいんだろう? 二人共にそう思い、言葉なく食事がすすむ。 重苦しい雰囲気を断ち切る様に、ユノが 「チャミナ、今日から当分二人で一緒の練習だな…」 「そうだね…」 いつもなら笑って俺を見るのに…何だよ…今日は目も合わせようとしないのかよ… 「…  チャミナ 昨日…  ソヒョン送って行ったのか?」  ユノは一緒に家まで行ったのか?どこか他にも行ったのか?そんな意味も含めて聞いた それを知りながら、チャンミンは 「送ったよ」 それだけを言い、食べ終わった食器を持って立ちあがった。 …あーなんで、ちゃんと店を出たらマネージャーが待ってたからそこで別れた。って言わ ないんだ。  ヒョンはテミンとあんなに遅くまでどこに行ってたの?ってなぜ聞けないんだよ… …なんで僕はこんなに意地っ張りで、素直じゃないんだろ … …どうして、テミンみたいにひたむきにヒョンにぶつかっていけないんだろう …  チャンミンは溢れてしまいそうになる涙を堪え、水しぶきをたてながら食器を洗った。  ユノはチャンミンの後ろ姿をじっと見ながら、考えた。 テミンがユノにまとわりつくのは、小さい頃からずっとで、今に始まった事ではなかった ので、まさかチャンミンがテミンの事を気にしているとは思ってもいなかった。 そして、テミンとのキスの事も酔っていた事もあり、ユノにとってはそれ程大きな問題と もなっていなかった。  ただひたすら目の前のチャンミンの気持ちの変わりように驚き、戸惑っていた。 … チャミナ…  言いにくいからそれしか言わないんだな、きっと。 何があったかよくわからないけど…いったい何がどうなって、急にこんな風になったんだ でも、そういう事なんだよな… 人の気持ちは変わるもんだよ、まさかこんな急激に変わるなんて夢にも思わなかったけど  チャミナ… ほんとに変わっちゃったのか? こっちむいてくれよ… なぁ、チャミナ…こっちむいて、俺にヒョンって言って、いつもみたいに恥ずかしそうに 笑ってくれよ… 頼むよ… チャミナ… なぁ…  チャミナ… いつまで見ていても振り向かないチャンミンに、ユノはため息を一つ落とし、席をたった  二人の練習日が何日かすぎ、仕事場ではいたって冷静な態度で過ごし、家ではお互いが 確信に触れられずに、冷たい空気が流れたままだった。 触れたくて… 触れられたくて… そんなもどかしい気持ちを抑えながら、絡まってしまった心の糸のもつれをほどけないま ま、二人はいくつかの眠れない夜を過ごした。  二人とダンサーたちでのレッスン室に、ある日ソヒョンが顔を覗かせた。 「あ、ソヒョンどうした?」すぐに気づいたチャンミンはソヒョンに近づいた。 「ユノオッパ、チャンミンオッパ…あの〜この前はごちそう様でした。これ私が焼いてき たので、良かったら、皆さんで食べてください」と手作りクッキーをチャンミンに渡した 「うわぁ〜すごい、自分で焼いたんだ?うまそう!ありがとう!ソヒョン」 恥ずかしそうに手渡すソヒョンから、クッキーを受け取り、チャンミンはソヒョンに微笑 みかけた。  ソヒョンの声はユノには届いていなかった。  二人が寄り添い話す様子をユノは見ていた。 …やっぱりそうなんだな…チャンミナ、あんな嬉しそうな顔して、ソヒョンとチャミナ背 格好もピッタリじゃないか…人も羨む美男美女カップルだな…  その方がいいのかもしれない。 誰にも言えない俺たちの関係なんて、不幸なだけなのかも…ソヒョンとの方がチャミナも 幸せになれるかもしれない。  苦しみ、せつなさ、はがゆさ、そんなすべての感情から逃れようと、ユノはダンスの練 習を始めた。 「それでは、お先に失礼します。練習頑張ってください」ソヒョンは部屋にいるみんなに 声をかけて、帰って行った。  クッキーをつまみながら戻るチャンミンの顔が心なしか、照れくさそうで、にやけてい るようにユノには見えた。 そうだよな…それが普通だよな。 「ユノヒョンもどうぞ」チャンミンがソヒョンの焼いたクッキーをユノに渡す。 ユノは別れの印籠でも渡されたような、そんな重い気分になった。 「ああ…上手に作ってるな。ソヒョンは料理も上手なんだな…」 「料理するのは好きだって言ってましたよ」 チャンミンが自慢するようにユノには聞こえ、胸が痛くなった。  一度そう思い込むと、まるで悪い魔法にでもかけられたように、ユノはチャンミンの態 度がすべて、ソヒョンに向いているように思えた。  … チャンミナ  これは悪い夢なのか?それとも、今までが夢だったのか?… ユノはチャンミンをつかまえ、「どうしてなんだ!?」そう叫びたかった。  しかし、ここはレッスン室だ、大事な復帰後初のSMTの練習中なんだ! そう自分に言い聞かせ、胸の中の抑えられない悲しみと不安をダンスにぶつけた。  チャンミンはユノの鬼気迫るダンスの練習の様子を見て、ヒョン…復帰初だから、気合 い入ってるな!僕もいつまでもテミンの事は気にしないで、今日帰ったらちゃんと話そう 普通に聞けばいいんだ。この前は遅くまでどこに行ってた?って。テミンがベタベタする のは前からなんだし…それに、ヒョンは今は僕だけだ。って言ってくれたじゃないか… おまえが一番好きだって…そうだよ、また不安になって悪い方に考えてた。ユノヒョンの 態度がおかしいのも、僕がいじいじしてるから…だから、ちゃんと話せばまた前みたいに なるさ。  ユノが自分とソヒョンとの仲を疑っている、などと言う事はつゆとも思わないチャンミ ンは、自分がちゃんと、正直に素直になって話せば、元に戻れるとそう信じていた。  ハードな練習が終わり、帰りの用意をしているチャンミンに 「ちょっと行くとこあるから、先に帰って」ユノが突然言い出した。 ビックリしたチャンミンは 「どこ行くの?誰と?こんな時間から?なんで一人で?僕は?」そう聞きたかったが、周 りには沢山のスタッフやダンサーたちがいて、 「はい、わかりました」そう答えるしかなかった。  ユノは家に帰って、チャンミンと二人きりになるのが怖かった。 いつ別れを切り出されるのか… 悪い魔法にかけられたユノはそんな風にしか思えなかった。思い込んでいた。  練習の合間にテミンに連絡して、ボーリングに行く約束をしていた。 もちろん、テミンは大喜びで二つ返事だった。  家に一人で帰ったチャンミンは ヒョンはいったいどこに行ったんだろ? メールしてみよう… 「ヒョン、話あったのにどこ行ったの?」 チャンミンからのメールを受け取ったユノ… 「やっぱりだ、やっぱりそうなんだ…チャミナ…おまえまでこんなに急に俺をおいて…」 崩れ落ちそうになるのを堪え、「ドンへとボーリングに来た。帰らないかもしれない」 ユノは隣でニコニコと笑うテミンをチラッと見て、そう返信した。 … ドンへ兄さん? あれ?おかしいな… チャンミンはキュヒョンにメールをする。 「今日ドンへ兄さんも韓国にいないよな?」 「ああ、みんなでマレーシアだ」 チャンミンは高鳴る鼓動と不安を堪え、ミノにメールする 「テミンどこ行ったか、知ってる?」すぐさまミノから電話がかかる。 「チャンミンヒョン、どうしたんですか?テミンに何か用事ですか?ユノヒョンと一緒な のに、チャンミンヒョン知らなかったんですか?」 チャンミンは携帯を落としそうになり、ガクリとソファーに崩れ落ちた。 「あーやっぱり、一緒だったんだ… ユノヒョンがなんか慌てて出かけて行ったから」 「テミンが嬉しそうに、ユノヒョンにボーリングに誘われた〜って言って、ルンルンで出 かけて行きましたよ。あいつやばいのにユノヒョン襲われますよ。大丈夫ですかね?」 チャンミンはそこからミノの声が聞こえなくなった。  ユノはテミンとはほとんど話さず、真剣にボーリングに集中していた。 それでもテミンはユノがストライクを出した、スペアをとった、と横で大喜びしていたが さすがに何ゲームも終わり、疲れたテミンは 「ユノヒョン〜どこか違うとこに行きましょうよ〜」と猫なで声で誘い始めた。  チャンミンは一人車に乗り運転していた。 どこをどう走っているのかわからない。ただやみくもに走っていた。 … ヒョンが嘘ついた …  テミンと二人で…帰らないかもしれない って なんで?なんで、テミンと… 涙で前が見えない 左手にはユノとの絆だと信じていた指輪が光っている。 ユノヒョン… 信じてたのに… どうすればいい? 僕はいったいどうすればいい? 助けて、助けてよ ヒョン!! 大丈夫だ!チャンミナ、大丈夫だよ!って 俺がいるから、俺がそばにいるからって ヒョン!早くそばに来て、そう言ってくれよ!!!!!! あ!!!!!!! キキー ブレーキの乾いた音が響いた。 大変だ!!事故だぞ!救急車だ!救急車を誰か!!