「ゆう!ゆう!ゆうはどこじゃ!?ゆうはどこにおるのじゃ? 苦しゅうて息が出来ぬ!はよーゆうを呼べ!」 ヒューヒューと音のなる息をしながら、苦しげに茶々姫は訴える。 「姫様しばらくお待ちくださいませ。今雄之助を呼びに行っておりまする」 「… ゆう…  くるしい…  はよーわらわのそばに…」  ドタドタと足音が響いて、勢いよく襖が開いた。 「茶々!また熱でたのか!?」 茶々姫の青ざめた顔が一気に上気して、頬に赤身がさした。 「ゆう…ここへ」細い手だけを差し出し、雄之助を呼んだ。  姫の眠る広い座敷の奥まで泥だらけの雄之助が泥を畳の上に落としながら 進んでくる。 「雄之助!またおまえはそのように泥だらけで!そんな恰好で姫様のおそばに…」と 女中の一人が言いかけたのを遮り、 「構わぬ!ゆう!はよーそばに…」 「いつ来てもここは広いなぁー!」下ろされた御簾をめくりあげ苦しげに ヒューヒューと息をする姫のそばに座り、顔を覗きこんだ。 「茶々…なんだよ… また息できないのか?苦しいのか??」 「ゆう…」折れそうなほどに痩せた腕を伸ばし、雄之助に助けを求める。 出された腕を掴み、痩せてはいるが自分よりも大きな姫の体を雄之助は小さな体で抱き起 した。 小さな手で一生懸命に背中をさすり、 「治れ!治れ!茶々の苦しいの早く治れ!なんで茶々ばっかりこんなに苦しい目にあうん だ。治れ!治れ!おらが変わってやりてーよ」 「ゆう…」姫は雄之助の小さな体に抱き付き、何度も名を呼び、深く息をした。 「わらわはゆうの香りが好きじゃ」 「かおり??」抱きしめられたままに背をさすり、不思議そうにたずねた。 「においじゃ、ゆうの匂い、ゆうの匂いを嗅いでいると、楽に息が出来るのじゃ」 「そうか?そうなのか?じゃぁずっとこうしててやる。茶々が治るまでずっと」 そう言い、雄之助は必死で姫の背中をさすった。 しかし、中々茶々のヒューヒューと言う音は消えず、いつまでも苦しげだった。 「茶々… 茶々…」 …  チャンミナ  … チャンミナ …  チャンミナ… ゆう?? …  チャンミナ…  チャンミナ…  遠くで声が聞こえるが、誰を呼んでいるのか、誰が呼んでいるのかもわからない …チャンミナ?? 肩を揺すられて、パチリと目を覚ます。 「チャンミナ!大丈夫か??すごい汗かいてるし、すごくうなされてたよ」 しばらく、じっとユノの顔をみつめて、 「ユノヒョン??」 「どうしたんだよ… 熱でもあるのか?」ユノはそう言って、チャンミンのおでこに手を 当てた。 「ユノヒョンだよね?…僕は…   茶々?」 「何言ってるだよ!熱にうなされたのか??おまえはチャンミン、茶々って誰だよ」 不思議そうに聞くユノを、まだじっと見つめたまま、段々と夢から覚めてきたチャンミン は 「面白い夢だったなぁー。妙にリアルだったよ… ヒョンが僕より小さくてまだ子供で 僕が姫なんだ…  ハハッ  夢の中でもヒョンの匂いが好きって言ってた」 そう言いながら、チャンミンはユノに抱き付き首すじに顔を埋め、ユノの香りを嗅いだ。 「この香り…落ち着く……  ヒョン…  なんか体熱くない?」 「…  う ん  ちょっと熱っぽいかな  だからチャンミナも熱出たのかと思って ビックリした」 「人の事より、自分だろ!?すぐツアー始まるのに… 病院いかなきゃ…」 「大丈夫だよ。いつもの事だよ、それより日本から帰ってきたら マネヒョンが探してくれた部屋にうつるのか?」 「ここから近いし、マネヒョンがとりあえずって言ってくれたし… 忙しい時はこっちに二人で帰ればいいとも言ってくれたから…」 「ああ… そうだけど…  あんまり荷物持っていくなよな…  こっちに置いとけよ」 「うん、そうするよ。先に日本のツアーがあるしね。あっちではずっと一緒にいれるから」 「そうだな、またチャンミナに風邪うつさないようにしないとな」 と言いながらも、ピタリと寄り添い、引っ付いて離れない二人だった。