スタッフ合わせて10名くらいの食事会だと思い、二人が行ってみると、ケビン側のス タッフ、SM側のスタッフも合わせて、50名はいるだろうか?と思われるパーティだっ た。  二人は正直ホッとした。 これなら下手な事にはならないよな…  ユノはチャンミンを想い、チャンミンはユノを想い そう考えた。 ケビンは二人が来たのを見つけるとすぐに飛んで来て 「ユノ、ようやく熱が下がって良かったよ。もうアメリカに帰らなきゃいけないのに、君 に逢えないのかと思ってハラハラしたよ」  あからさまにいやらしい目つきでユノを見て、顔の方に手を伸ばしてきたがユノはさっ と身を引いて離れ 「今日は呼んで頂いて、ありがとうございました」と差し障りのない返事だけを返した。 「チャンミン、君もよく来てくれたね」そう言って、チャンミンの肩に手を置き、2,3 度揉むような仕草をした。  まさか自分に手が伸びてくるとは思っていなかったチャンミンは、ふいな出来事に避け る事も出来ずに、ビックリした表情になった。  ユノは横でチャンミンに乗せられたケビンの手を払いのけたい衝動を抑え、ケビンを睨 みつけたが、ケビンは何事もなかったかのように 「じゃぁゆっくり楽しんで」と言い残し、SMの専務たちがいる方に歩いて行った。  ケビンが離れて行った瞬間、チャンミンは眉を顰めて今ケビンに触れられた肩の汚れを 落とすように、必死で払った。  その姿を見たユノは、笑いながらまるでその肩を清めようとするかのように、チャンミ ンの肩を何度も揉んだ。 …  ヒョン  …  チャンミンは俯いて頬をあからめた。  何人かの挨拶が終わり、司会者はユノを呼んだ。 ユノは前に行き、挨拶をしながらも、チャンミンから目を離さずにいた。 しかし、またそれを横からじっと見るケビンもいた。  何事もなく時間が過ぎ、立食パーティの食事と飲み物を充分に楽しみ色々お世話になっ たスタッフと話すうちに、二人共ケビンの事は頭から消えかけていた。  ユノはアメリカ人ダンサーとチャンミンはSMのスタッフと話していた。  チャンミンはスタッフに「トイレに行ってくる」と言い、チラっとユノの方を見たがユ ノは気づかずに楽しげにダンサーと話しているので、「わざわざ言わなくても、いいか」 と思い、そのままトイレにむかった。  チャンミンがパーティールームを出てすぐ、待ち構えていた様にケビンが後ろからやっ てきて、チャンミンの肩を組んできた。  チャンミンより背の高い、大柄のケビンにガッシリと肩を組まれて、鍛えているとはい え、華奢なチャンミンは離れる事も出来なかった。 「どうだい、チャンミン 楽しんでるかい?君の事はユノから聞いてたよ」 「え?」 …ヒョンがなんでこいつに俺の事を?… 不思議に思いながらも、ユノの名前が出てきた事で、チャンミンの警戒心が少し緩んだ。 「仕事の事でちょっと話があるんだけど、いいかな」そう言って、強引に奥の部屋に進 もうとする。  しかしその言葉に対しては「仕事の事なら、事務所を通してください!」と強く言い、 離れようともがいた。  ケビンはなおも強くチャンミンの肩を抱き、耳元に顔を近づけ 「君の大事なユノの将来がなくなってもいいのかい?」そう言った。  驚いたチャンミンはケビンの顔をパッと見た。  ケビンはフフ… といやらしい笑いをうかべ、 「君ら二人の事は知ってるんだ…君の態度次第では誰にも言わないし、ユノの仕事もちゃ んと用意してあるんだから」 「二人の事って何ですか?」そんな引っかけには騙されないぞ!という風にチャンミンは 毅然とした態度で答えた。  ケビンは少し肩をすくめ… 「チャンミン、今日はペアリングしてこなかったのかい?」ニヤリと笑った。  チャンミンはカッと血が上り、言葉が出てこなかった。 …ダメだ、こんな奴の言う事まともに聞いちゃ…何か言わなきゃ…  そう考えるうちに、もがく力が抜けたのか、ケビンはチャンミンを抱えるように、ドン ドン進み奥の部屋の前まできた。 「ぺ…ペアリングって誰とペアだって言うんですか!?」必死で取り繕おうとしたチャン ミンだったが 「ハハハ…チャンミン… 何の言い訳にもなってないぞ。ユノと君の二人に決まってるだ ろ」そう言い、チャンミンを部屋の中へ押し込もうとした。  チャンミンは言い当てられた事に驚き、ショックを受けたが、このまま部屋の中には入 れない。と渾身の力でケビンをドン!と押し 「ユ  誰か!誰か来てくれ!!!!」と大声で叫んだ。 「誰にも聞こえないよ」一度押されたくらいではビクともしないケビンはチャンミンの腕 を掴み、部屋の中へ引きづりこんだ。  ユノはダンサーと話していた。  しばらく話し、ふと周りを見ると、さっきまでチャンミンと話していたスタッフが、今 は他のスタッフと話している。 「あれ?」部屋の中を見渡す… 飲み物のコーナー…  いない… 食べ物のコーナー…  違う… 「チャンミナ…」  専務たちのいる一角… 「どこだ?どこにいる?チャンミナ…」 チャンミンと話していたスタッフに速足で近づき 「チャンミナは?」と聞いた。 「あ、ユノさん チャンミンさんはトイレに行くって… でも遅いな…」 「トイレか…」  しかし、ユノはハッと気づき、ケビンを探す。 …チクショーどこだ! あいつ!ただじゃおかない!!…  ユノはSMの専務の所に走る。 「専務!俺はチャミナを守りますから!後はそっちで何とかしてください!」 そう叫び、返事も聞かずに走り出した。  チャンミンは部屋の中に押し込まれ、倒れた。 「この変態!おまえユノヒョン狙ってたんじゃないのかよ!」 「おやおや、変態呼ばわりか?そうだよ、初めて見た時からユノを狙ってたさ、こっちで はどうだか知らないけど、アメリカではユノはゲイに大人気なんだよ。そんな彼がどんな 子を好きなのか興味あってね〜いつも観察してたんだよ。左手の指輪を大事そうに見ては キスして、祈りをささげて…スタッフにしょっちゅう「チャンミン」って言ってたな。 僕には「チャンミン」っていうのが女なんだか、男なんだか分からなかったから、てっき り可愛い女の子なんだと思ってたよ。そして、こっちに来てみたら、どうだい…ハハハ ユノと同じ指輪を左手にしてきて、大事そうに触ってたのはチャンミン…可愛い男の子だ ったのさ。そして僕は、ユノが可愛くてたまらない君を、いじめてみたくなったのさ」    そう言いながら、ケビンは倒れたチャンミンの両腕をとり、床に押し付けキスをしよう と、顔を近づけた。が、チャンミンは必死で顔を横にふり、ケビンの顔を避ける。 「しょうがないね〜」ねっとりとした口調で言い、チャンミンの首すじに唇を寄せた。 「ちくしょーー!!やめろーーーーーーー!!!!ヒョン!ユノヒョン!!!!!」 チャンミンは必死の想いで叫んだ。  ユノは廊下に出て走った。 どこだ!? どこの部屋に隠れた!!!! そこへSMスタッフが血相を変えて飛んで来た。 「ユノさん大変です!!チャンミンさんがケビンさんに連れ込まれました!!大声で叫ん でました!一番奥の部屋です。僕鍵もらってきます」  ユノは怒りに震えながら全速力で一番奥まで走る。 「チャンミナ!!!」 …ヒョンの声だ… 「ヒョン!ここだよ!」そう叫ぶチャンミンの口を塞ぐように、ケビンは唇を押し付けた。 ガリッ 「いた!」ケビンの口から血が流れる。  チャンミンがケビンの唇を噛んだのだ。  押さえられていた両腕が離れ、チャンミンは跳び起きて、ドアのカギを開ける。  ちょうど、ユノが部屋の前に駆け付け、チャンミンを外に出し、自分は部屋の中に入り、 何も言わずにケビンに一撃、回し蹴りをくらわした。  ケビンの脳天に直撃した回し蹴りは一撃で決まり、ドサリと巨体が倒れた。  ユノはすぐに廊下で震えながら立ちすくむチャンミンを抱えて、廊下を進む。 パーティールームには戻らずに、そのままエレベータに乗った。 ドアが閉まるや否や、ユノはチャンミンを強く抱きしめ、 「チャミナ…すまない」そう言ってチャンミンの頭を抱え込んだ。 チャンミンは恐怖からか言葉が出なかった。 「ヒョン…」 「すまない、チャミナ」繰り返し繰り返し謝るユノだった。