チャンミンはユノのおでこに手をあてた。 「あつい…」  そのチャンミンの手で目が覚めたユノは「チャミナ  大丈夫だから」と言って起き上 がった。 ……大丈夫なんかじゃ、ないじゃないか……  起き上がったユノの体に触れて、体温がかなり高い事を感じたチャンミンはそうつぶや いたが…やめろ!と言っても、休めと言っても無駄だと言う事は長い付き合いの中で、チ ャンミン自身が一番よく知っていた。 …  さぁどうするかな… … 「ヒョン、病院行くくらいは時間あるの?」 「朝のうちなら行けるかな… 注射でも打ってもらうよ」 「そうだね、マネージャーさんに電話しとくよ」 「ああ…頼むよ…明日には下がるさ…」  いよいよ明日が本番の日だった。 「昨日の参鶏湯温めるから、食べなよ」  ユノは鉛のように重くなった体にムチ打つように、テーブルに座った。 「ああ…  」そう言って、テーブルの上にあったチャンミンの手をギュッと握った。  チャンミンは少し恥ずかしそうに微笑み、参鶏湯を温めるために立ち上がった。  二人のそれぞれの仕事を終えて、二人が帰宅したのは、やはり深夜遅くなってからだっ た。 「…ヒョンはまだか…大丈夫だったのかな、明日も寒くなるみたいだけど、ヒョン熱下が ったかな」先に帰ったチャンミンは心配げにそうつぶやいた。  何か作っておいた方がいいかな…食欲あるかな…ヒョン落ち込んでたの、ましになった かな…  頭に浮かぶのはユノの事ばかりだった。 ガチャ  玄関の音がすると同時にチャンミンは駆け出した。 「ヒョン!大丈夫?」  そこには今にも倒れそうになりながら、必死で立っている顔面蒼白のユノがいた。 「チャンミナ… ただいま」 そう言いながら、フラフラとチャンミンの肩に手を伸ばし、体を預けた。 「ヒョン!」 ユノの体を支えるように抱きかかえ、 「熱下がらなかった?」チャンミンはユノを覗き込んで聞いた。 「一度下がったけど、また上がってきたみたいだ」 「寝た方がいいね…薬は飲んだ?」 「ああ…」 「明日までに下がるといいんだけど…」 パジャマに着替え、布団に入るユノの体が震えていた。 「寒いの?ヒョン?」 「だい…じょうぶ…」そう答える声も震えている。 「うつるといけないから、離れてた方がいい…」 ユノは布団に潜り込みながら、チャンミンに向かってそう言った。 「ヒョン、こんな時に何言ってんだよ。 水持ってくるよ」 チャンミンはミネラルウオーターを冷蔵庫から取り出しながら … ヒョンはこんな時にまで人の事心配して…僕、ヒョンみたいにクリスチャンじゃない けど…ヒョンを守ってる神様… どうか明日のコンサートまでに熱が下がって、ステージ が上手くいきますように。お願いします…  目を閉じ心の中で祈った。  寝室に戻りチャンミンは布団を頭までかぶり、見えなくなっているユノに声をかけた。 「ヒョン、水ここにおいとくよ… もっと布団かけようか?」  すでに眠りに入ったのか、ユノからの返事はなかった。 「…   う   …  う…  み ず  …  」  ユノのうなされる様な声にハッとなり、ベッドのそばに椅子を持ってきて、毛布にくる まりウトウトしていたチャンミンは、ユノを覗き込んだ。 「ヒョン のど乾いたの? 水飲む?」 ペットボトルの蓋をあけ、ユノに飲ませようとしたが、ユノは目が覚めていないのか、意 識がないのか、チャンミンの問いかけに反応しない。 「ヒョン!水だよ!」そう言ってもう一度飲ませようとするが、口から零れて、枕を濡ら すばかりだった。 「どうしよう…困ったな…  」しばらく考えたチャンミンは、そうだ。と思いついたよ うに、おもむろにユノの眠るそばに潜り込んだ。  苦しげにハァーハァーと息をするユノのくちびるに自分のくちびるを重ね、言葉をのせ る。 「ヒョン、水だよ…」 それには気づいたユノは 「チャンミナ…」そばにいるチャンミンを力なく引き寄せた。 チャンミンはペットボトルの水を口に含み、少し目覚めたユノに口移しで流し込んだ。  ゴクリとユノが水を飲み込む音が聞こえた。 …  あー良かった …  飲んだ … 「ヒョン、もっといる?」 「ああ…  冷たくて うまい …」  チャンミンはそう言われ、嬉しそうにもう一度水をユノに流し込んだ。 「チャンミナ ありがと… 生き返ったよ」 ユノはそう言うと、チャンミンの頭を自分の胸に引き寄せ、おでこにキスをした。 「ヒョン… このまま ここにいてもいい?」チャンミンはユノに抱き付いたまま聞いた。 「…ダメだ…って言わなきゃいけないのに…おまえを抱いてるとあたたかい…さっきまで ブルブル震えてたのに、ドンドン温かくなるよ… チャミナ…」 「僕が温めてあげるよ、ヒョン」チャンミンはユノをギュッと抱きしめ、背中をさすった。 「何もしてやれないけどな…」 目を閉じたまま、力なくフフっと笑ったユノに 「何言ってんだよ!こんな時に」そう怒ったように言いながら 冗談言えるくらいになって、良かった。 チャンミンはそう思った。  ユノは安心したようにまたすぐに眠りについた。  チャンミンはユノの熱い体を一生懸命さすった。 …ヒョン、こんなに熱い体してるのにまだ寒いって…熱全然下がってないんじゃないかな  ジリりリり…  ユノの目覚まし時計がけたたましく鳴り響いた。 「うわ!びっくりした!」チャンミンは驚いて、飛び起きたが、目の前のユノはまだうな される様に眠っている。  チャンミンはおでこに手を当て、 「あーまだ全然下がってないや…本番の日だっていうのに…可哀想なヒョン…」  ずっと頑張って準備してきたユノの努力を思うと、胸が締め付けられそうだった。  しかし、熱があっても行かないわけにはいかない事はチャンミンも十分にわかっている。 張り裂ける様な想いで 「ヒョン…ヒョン… 朝だよ… 本番の日だよ」肩を揺すり、ユノを起こす。 「……  チャンミナ …  おまえ一緒に寝てたのか?うつるから離れとけって言って たのに…」 「ごめんよ…ヒョン 寝苦しかった?心配で寝れないから潜り込んじゃったんだ」 下から上目使いで見上げるチャンミンに ”あー元気だったらこのままいっちゃいたい… こいつほんとに男なのか? この可愛さはいったいなんだ?”熱があるにも拘わらず、そんな事を考えるユノだった。 出かける用意をしながらユノはそばにいるチャンミンに 「チャンミナ…ちょっと元気になったよ。おまえがそばで寝てくれたからかな」 そう言って、チャンミンの頬をつねった。 「そうだといいけど…まだ体は熱いよ…」頬をつねるユノの手を握り返した。 「また注射打ったら、一時はさがるから…チャンミナ見に来てくれるんだろ?」 「うん、ミノと行くよ」 「キュヒョンじゃないのか?」 「あいつはスケジュールがあわなかったんだ」 「なんか寒そうだから、あったかくして来いよ」 「何言ってんだよ、ヒョン。 高熱のある人に言われたくないね」 「そうだな…」  そう言って二人で笑った。 「さぁ!気合い入れて頑張る!チャンミナ見ててくれよ!頑張って踊ってくるからな!」 「うん!ヒョン頑張って!ちゃんと見てるからさ」 「おまえのために頑張るよ」  そう言うユノにチャンミンは驚いた。 「ヒョン!そんな事言っちゃファンに怒られるよ。僕殺されちゃうよ」 「ハハ!お前が殺されたら、俺が困るな」 「そうだよ、ヒョン、世界中のユノペンのために踊ってよ…ヒョン、今日はあのリングし ていかないだろ?今日は僕がしていくからさ」 「ああ、そうだな、しないけど、俺の中ではいつも光ってるさ」ユノはそう言って、左手 を上にかざした。 … ヒョン…  カッコいい〜 キザだけど、ヒョンが言うとなんてカッコいいんだろ…  チャンミンは心の中でドキドキしながらそう思った。 「じゃぁ行ってくるよ。チャンミナ」 ギュッとチャンミンを抱きしめた。  チャンミンは抱きしめたユノの体がすごく熱い事が気になったが、どうする事もできず ただ明るく送り出すしかなかった。 ユノは迎えの車に乗り込んですぐに 「先に病院に行ってくれますか」そう言い、シートにぐったりと横になった。