携帯をユノの部屋に持って行き置こうとするが、いつまでも鳴り続ける着信音に吸い寄 せられるように、スライドさす。 「あ!!ユノヒョン!?」耳障りなテミンの猫撫で声を聞き、チャンミンは電話に出た事 を後悔したが、低く小さな声で「ああ」と答えてしまった。 ”なんだよ…やっとユノヒョン出てくれたと思ったら、チャンミンヒョンじゃないか… なんでユノヒョンじゃないんだよ…しかもチャンミンヒョン嘘ついてさ!!” テミンはそう思いながら 「ユノヒョン!昨日はお疲れ様でした!ユノヒョンと一緒でとっても楽しかったです。 ユノヒョン今日休みだって言ってたから…またボーリング行きたいなぁ〜と思って。 この前はチャンミンヒョンの事故で途中で帰らなきゃいけなかったけど、今度は朝まで 一緒にいれますよね?? 僕またユノヒョンのたくましい胸に抱かれて眠りたいなぁ」  チャンミンは思わず声をあげてしまいそうになり、手で口を押さえ電話を切った。 ツーツーツー 「ギャハハハハ」テミンは意地悪い顔で笑い、 「ユノヒョンを一人占めしてる罰ですよ!チャンミンヒョン」    チャンミンはユノの携帯を投げ出し居間に戻った。 「…あいつ何言ってんだよ…  何を…」頭を抱え込んで叫んだ。 頭の中が真っ白になり、何も考えられない。  どれくらいの時間がたったのかわからない、呆然とソファに座り込んでいるチャンミン の耳に小さく自分の携帯の着信音が聞こえた。 …電話だ…  中々動く事が出来ずにゆっくりゆっくり立ち上がり、携帯を取る。 「…もしもし」 「チャンミナ?なんだ中々出ないから、もう切ろうかと思ったよ。今日は休みって言って ただろ?飯食いに行かないか?」 「……  行きます …  先輩…  ありがとうございます」 「ハハハ!!! チャンミナ、ありがとうございます、って何だよ…すぐ出れる?前にみ んなで行ったあの店で。じゃあな」 「はい、わかりました。ジョンヒョンヒョン、はい」 チャンミンは一人でいると、どうにかなってしまいそうで、また飛び出してしまいそうで ジョンヒョンの誘いにホットした。  下山して街に戻る途中の車の中、ユノはスタッフに携帯を借りて、チャンミンに電話を かける。 「もしもし、チャンミナ?俺だけど…携帯忘れてただろ?ハハハ…飯食ってから帰るけど 体調はどう?大丈夫か?」ユノがそう優しく聞いたがチャンミンは言葉が出なかった。 声が口に出せない。 「…  はい  …」ようやくそれだけを答えて電話を切った。 「チャンミナ…誰から?」 「ユノヒョンです…」 「ふ〜〜ん、おまえら仲良いいんだ。休みの日でも連絡して。おまけに一緒に暮らしてる んだろ?仕事も一緒でプライベートも一緒って息つまらない?」 「事務所からそろそろ別に住むか!?って言われてるんです」 「そりゃそうだよ!これだけ売れてるスターが練習生みたいにいつまでも一緒に暮らし てるっておかしいもんな」 「おかしいですか…?」 「ハッハッハ… おかしいよ…チャンミナ、別に暮らしたいと思わないのか?」 「…ずっと一緒で…慣れちゃってるから…」 離れたくないんです。などと言えるはずもなく、目の前のビールを一気に飲み干した。    食事を終えて家へ帰ったユノ 「ただいまーチャンミナ…  あれ?チャンミナ?」 呼びながら部屋をウロウロと探すがチャンミンの姿がない。 「おかしいな… チャンミナ…」自分の携帯を探して、チャンミンにかけるが何度鳴らし ても出なかった。  段々と不安になるユノ ”チャンミナ体調悪そうだったしな…せっかくの休み一人にして…やっぱりまだ怒ってた のかも…”何度もチャンミンにかけるが、虚しく呼び出し音だけが響く。 「どうしたんだよ…チャンミナ…」心配が頂点に達しマネージャーに電話をかけた 「もしもし、マネヒョンですか?チャンドラと連絡つかないんですけど、今どこにいるか 聞いてますか?」 「いやー聞いてないけど…ちょっとかけてみるから、待ってて」    チャンミンはジョンヒョンと食事をしながら、何度もかかるユノからの電話を無視した 「チャンミナ…俺はいいから電話でれば?さっきから何度もかかってきてるんだろ? 遠慮せずに出ればいいよ」 「ありがとうございます、先輩。どうせユノヒョンからだから、いいんです…」 「どうせ、って。またユノから?面白いなぁーおまえら。何の用でそんなしょっちゅう 電話すんの?」ジョンヒョンが不思議そうな顔でそう尋ねたが、チャンミンにはユノが家 にいない自分を心配してかけてきている事は安易に想像できた。  しかし、テミンのあんな話を聞いて、冷静に電話に出れるはずがない。 そう思うと無視するしかなかった。  ジョンヒョンは明るく、陽気で随分と年上だが、人見知りなチャンミンでも気を遣う事 なく接する事の出来る大きな人だった。 ”今日ジョンヒョンヒョンから連絡もらってほんとに良かった…あのまま家で一人でいた ら、また前みたいに…” 「ヒョン、今日は誘って頂いて、ありがとうございました。正直言うと今日凄くイヤな事 があって…助かりました」チャンミンは改めてまたジョンヒョンにお礼を言った。 「何言ってんだよ!チャンミナ!普通に飯誘っただけじゃないか!イヤな事あったのか? 何だよ…チャンミナ、相談のれる事あれば聞くよ!?」 優しい言葉をかけられ、チャンミンは鼻の奥がツーンとなり、手で鼻を押さえた。 「チャンミナ…泣いてんのか?」 「泣いてませんよ!先輩!そんなすぐに泣きませんよ!」 「そうか?チャンミナ…この前撮影の時泣いてたじゃん!ハハハ!」 「あれは悔しくて泣いてたんです!!!」顔を真っ赤にして怒るチャンミンに 「やっぱり泣いてるじゃないか!!ハッハッハ」とジョンヒョンは豪快に笑った。  一方、マネージャーからの連絡を待つユノは落ち着かない様子でウロウロと動き回って いた。 ”チャンドラ…どこだよ。早く連絡してくれよ…レゴは出来上がってるのに、こんなとこ に置いたままだし、几帳面なチャンミンが片付けもしないで…急に出かけたんだなきっと” ソファにドサりと腰を落とし、携帯を睨む。  ようやく着信履歴が沢山ある事に気づき、チェックするとテミンからの着信がズラリと 並んでいた。 「何だ?これ」思わず声が出た。嫌な予感が脳裏を過る。 「チャンミナ…」    嫌な事を忘れようと、お酒を飲むチャンミンの携帯が又鳴った。 「マネヒョンだ、すいません、先輩 ちょっとマネージャーからなんで」と言い 席を外して電話に出る。 「もしもし?」 「あーなんだ、出るじゃん!ユノが何回かけても出ないって心配してるよ、今どこ?」 「ジョンヒョンヒョンとご飯食べてます」 「それならいいけど。ユノが心配してるから電話しとけよ」 「…マネヒョン…すみませんけどユノヒョンに言っておいてもらえませんか?今ちょっと 盛り上がってるし」 「あーわかった。じゃぁそう言っておくよ。飲みすぎて明日寝坊するなよ!」 「はい、わかりました。マネヒョン、お願いします。お疲れ様です」 ”ハァー”電話を切ると同時に深いため息が出た。 ”今は何も話せないよ…” 席に戻ったチャンミンはわざと明るい調子で 「ヒョン、ワイン飲んでもいいですか?」と言った。 「あー飲め!飲め!チャンミナ!じゃんじゃん飲んで嫌な事は忘れちまえ!」 ジョンヒョンは楽しそうに大きな声でそう答えた。 「もしもし、ユノ?大丈夫!チャンミナすぐ出たよ。ジョンヒョンさんと一緒だってさ。 なんか盛り上がってるから、おまえにそう伝えてくれってさ!」 「ジョンヒョンさん!?ジョンヒョンってあのバトミントン一緒にやってるジョンヒョン さんですか?」 「あーヒョンって言ってたからそうだろ。じゃぁ明日、寝坊しないようにな!」 「はい、わかりました。」 「どういうつもりだよ…チャンミナ…この前あれだけ連絡するな!っていってたのに… 俺に隠れてコソコソ会うみたいな事して」ユノはイライラしてテーブルをドン!と叩いた テミンの着信履歴の事などすっかり忘れ、嫉妬心でいっぱいになった。 ”何で俺の電話には出ないんだよ!盛り上がってるって何だよ!盛り上がるって!!!"  チャンミンはジョンヒョンと楽しい時間を送りながらも頭の中はユノとテミンの事で一 杯で ”帰りたくないな…今はユノヒョンの顔見たくない…”と帰る時間をドンドン遅ら せていった。  ユノは登山で体は疲れていたが、頭が冴えて中々寝付けない。 ”遅いな…チャンミナ…体調悪かったんじゃないのかよ!”何度寝返りをうっても眠れない ”ハァー…なんでよりによってあいつなんだよ!彼女みたいだ!なんて言う奴と!!” ”…まさか…チャンミナ!?”ユノはジョンヒョンがチャンミンの胸に顔を埋める写真を 思い出し、ベッドから出た。 「くそ!!!」冷蔵庫から水を取り出し、グビグビと音をたてて飲む。 ガチャ…  玄関の開く音がして、チャンミンがこちらに来る足音がする。 ”冷静に…冷静に…俺も悪かったんだから、冷静に”ユノは自分に言い聞かせた。 キッチンのドアを開け、チャンミンが入ってくる。 冷蔵庫の前に立つユノを見つけて、チャンミンはドキっとしてたじろいだ。 「おかえり、チャンミナ」 「…起きてたの…寝てれば良かったのに」チャンミンはユノの目を見ずに答えた。 「何回も電話したけど、出ないから、心配で…」そう言いながら近づいてくるユノを拒否 するように、知らん顔をして、チャンミンは居間に向かう。 ユノはチャンミンの後を追い腕を掴んだ。 「チャンミナ!何だよ!まだ怒ってるのか!?一人で山行った事!?悪かったって! 今度は絶対おまえと一緒にって謝ったじゃないか!!」 ユノは冷静に、冷静にと思いながらもチャンミンの態度を見て、段々と腹がたってくる。 「離せよ!…今はユノヒョンと話たくないんだ」掴まれた腕を振りほどき、チャンミンは 前を向いたまま答える。 「どうしてだよ!話したくないって!どういう事だよ!」 「どうでもいいだろ!!とにかく今は話したくないんだ!」 「そんな事言われて、はいそうですか、って納得出来ると思ってんのかよ!?」振りほど かれた腕を又掴み、強く引っ張り、こちらを向かせる。  こちらを見たチャンミンは目に一杯の涙をため、今にも声をあげて泣き出しそうな、 そんな悲しい顔だった。