何も言わずにじっと睨むチャンミンにユノは思わず「…何でもないよ…」と言ってしまっ たが、目が泳ぎ、口を押さえたり、触ったり、明らかに動揺した様子のユノにチャンミン は「また、嘘つくつもりなのかよ!」低い静かな声で詰め寄った。 詰め寄られたユノは観念したかのように 「………… キスした ………」 「はん!」言葉にならない声を発し、チャンミンはユノの胸を片手で突き、歩き出した。 追いかけながらユノが 「酔ってたんだよ…」 「あまり覚えてなくて…」 必死で言い訳するが 「うるさい!!!」とチャンミンに罵られ 「…うるさい、って何だよ!わかったよ。黙ってればいいんだな!」とユノもイラっと して言い返し、両耳にイヤホンを差し込んでズンズンとチャンミンを追い越した。 「逆ギレだよ…  もう知るもんか!!」   チャンミンは前を歩くユノから目を逸らし、窓の外に広がる景色をただぼんやりと見 送った。   飛行機の中でも二人はいっさい口も聞かずに時間を過ごした。 ”何だよ、キスぐらいで!酔ってキスするくらい、男なら誰でも経験あるだろうに… そんな怒るような事でもないじゃないか!おまえが一番好きだって言ってるのに!” ”酔ってたら何してもいいのかよ!何もなかったって言ってたくせにキスはしてもいいの かよ!それともユノヒョンは誰とでもキスできるのか?やっぱりテミンが好きだからキス したんじゃないのかよ!何とも思ってないなら、突き放して知らん顔すればいいじゃない か!僕の事が一番好きだって言うなら、そうしてくれればいいじゃないか!!!” 二人は目もあわせず、お互いに知らん顔を決め込んではいるが、心の中ではお互いの事 で一杯だった。 日本に到着し、ツアーの練習が始まったスタジオ。 すっかり馴染みになったダンサーやバンドメンバーと楽しく話すうちに二人は怒っていた 事も忘れて練習に没頭していった。 水を得た魚の様に生き生きと楽しげに綺麗に踊るユノのダンスを見て、チャンミンは 「はぁ〜」と思わず感嘆のためいきをついて,パチパチと拍手した。 それを見たユノは何がそんなに嬉しいんだ?と言いたくなるくらいの嬉しそうな顔で笑 いチャンミンに向かって親指を立てた。 「すごいな〜やっぱりユノヒョンのダンスは最高だな!僕が何回もやって覚えたダンス、 1,2回でそこまでカッコ良く踊れるんだからなー」 チャンミンに褒められてすっかり気分を良くしたユノはクルクルピョンピョンと子供の 様に、楽しげに踊って皆の笑いを誘った。 「ヒョン、何か食べる?小腹空いたからラーメンでも作ろうかな…」  部屋に帰り、荷物を置きながら何気なくそう話しかけるチャンミンにユノは 「まじで?うれしーなー 俺も何か腹減ったなと思ったとこだよ」 フーーっと疲れた声を出して、ソファーに腰を下ろした。  チャンミンが手際良く料理をする後ろ姿を見て、ユノは立ち上がり、そっと近づくと チャンミンの背中から腰に手を回し、肩におでこを乗せて 「チャンミナ…  あのさ  …  あの…   」 料理する手を休めずにチャンミンは 「何?ユノヒョン」とごく普通に聞いた。 「あの…  あのさ …  あの……  悪かったよ…  」言いにくそうに肩に顔をう ずめたまま、小さな声でそう言うユノに 「何が?何のこと言ってんの?ユノヒョン」とチャンミンはフフっとうすら笑いを浮かべ ながら言った。  チャンミンの顔が見えないユノは 「だから…  あの…  テミンと…  」腰に回した手をギュッと強める。 「ユノヒョン、ほんとは悪かったって思ってないだろ!?」 「え?」思わず顔をあげて、チャンミンの顔を覗き込む。 「酔ってたからとか、キスくらいでとか思ってんだろ?ユノヒョンの顔にちゃんと書いて あったよ」  図星をつかれてユノは言葉を探すが見つからない 「さ、出来たよ。食べようヒョン」 「あ、ああ」ユノは腰に回した手を離し、美味しそうな湯気の上がるラーメンをテーブル に運んだ。  ユノはチャンミンの真意が分からず、チラチラとチャンミンの様子を見ながら、ラーメ ンをすすった。  美味しそうにラーメンをすすりながら、チャンミンが急に 「ユノヒョンはテミンが好きなの?だからキスしたの?」そう聞いたので、ユノはむせか えった。 「ゴホ!ゴホ! 違う!違うよ!好きじゃないよ!はっきり言ってあんまり覚えてないん だ」慌てて否定するが 「ユノヒョン、酔ってキスして、覚えてないって…それはそれで問題だと思うよ」冷静に そう言うチャンミンに 「ごめん、チャンミナ…そうだな…ほんとだな…あの時どうかしてたんだよ…もう大丈夫 そんな事絶対にしないから…」 「もういいよ、ヒョン、僕も言いすぎた…ごめん」ニコっと笑うチャンミンにユノは嬉し そうにうなづいてラーメンをすすり直した。  今日1日の出来事を楽しげに話し、ラーメンを完食した時、チャンミンが 「ヒョンのダンスはほんと卑怯だよな」情景を思い浮かべるような表情でそう言い出した 「卑怯って何だよ?それー」不思議そうにユノがそう尋ねる。 「あんなカッコいいダンス見せられたら、朝からずっと怒ってたことぜーんぶ忘れて、思 わず、拍手しちゃったよ、ずるいよな〜」 「チャンドラ〜〜〜」ユノは満面の笑みで手を伸ばし、チャンミンの頬を軽くつねった。 ”フフ…またその顔…その顔もずるいよな…そんな顔で笑って見られたら許すとしか言え ないよ。練習の時も、あまりにも嬉しそうな顔して僕を見て親指たてるもんだから、ダン サーさんから 「ユノのあの嬉しそうな顔!!ハハ!!俺らがいくら褒めたって、あんな嬉しそうな顔し た事ないよな!さすが最強様だな!チャンミン!」なんて言われて、恥ずかしくて、どん な顔すればいいかわかんなかったよ”  昼の様子を思い出し、下を向き鼻をポリポリとかき、フフフっとニヤけるチャンミンに 「何一人でニヤけてるんだよ!」 「え〜?やっぱりユノヒョンは僕にベタ惚れなんだなぁ〜と思ってさ」そう言いながら立 ち上がり、食器を片付け始めた。  ユノも同じように立ち上がり、 「今頃気づいたのかよ!だからおまえがいなきゃ息も出来ない!って言ってんだろ」 引っ付いて並び、二人で食器を洗った。 「なぁーテミナ…おまえ、もうユノヒョン追っかけまわすの止めとけよ!」飛行機でテミ ンと並んで座ったミノはそう切り出した。 「別に追っかけまわしてなんかいませんよー」テミンは雑誌をペラペラをめくりながら軽 く答えた。 「じゃぁーベタベタすんのもやめろよ!ユノヒョン困った顔してたじゃないか」 「ベタベタしてましたか?そんなつもりないんだけどなー」素知らぬ顔でそう言うテミン にしびれを切らしミノは 「おまえもわかってんだろ?ヒョン達の事。…それにチャンミンヒョンの前の事故だって おまえ絡んでたんだろ?もうチャンミンヒョン傷付けるような事するなよ!」 「じゃぁ、ミノヒョンは僕が傷つくのはいいんですね!?」目にうっすらと涙をためてテ ミンが言い返す。 「僕だってずっとユノヒョンに憧れて…」ポロリと涙を流すテミンを見て、ミノは驚いて 「テミナ本気だったのか?」そう言ってテミンの頭を撫でた。 優しく頭を撫でられ、今まで我慢してきたものが溢れ出すようにテミンは泣きじゃくった 「テミナ…  だけど… あの二人には無理だよ…入れないよ…テミナ…可愛い子紹介す るからさ… な?」ミノは優しくテミンの背中を撫でた。